5

 

 

 

 

 

雪が降り出しそうな寒空の下、ポケットに両の手を突っ込んで歩く。

家を出るときに見た時計では、時刻は11時を越えていた。行き交う人の少なさや、それに反してあちらこちらから聞こえる酔っぱらいの声が街を彩る、夜の街。

 

こんな時間、ひとりで歩くのには訳があった。大切な人を無事家に連れて帰る、何よりも大事なミッションが。

 

 

「あ! きたきた、さっすが〜、早いねえ」

 

向かったのは、日付をまたぐような時間帯でも賑わう、大衆居酒屋。

そんな俺を迎えたのは、頭に響くけたけたという笑い声。……三人分。

 

「クラウドさん! なんで店わかったんスか? おれが伝える前に電話切っちゃうからどうしようかと思ってたのに」

「そりゃお前、こいつのことだから、今日俺たちが飲んでた場所なんて把握済みだろうがよ」

 

他の客たちの声も相まって、うるさくて仕方のないこの場所で、元気が良すぎるこいつら……さっき俺に電話をかけてきた、ティファの同僚たちの声は、特段大きく響いて聞こえた。

 

「……。で、ティファは」

 

俺にも酒を持ってこようとする店員をあしらって、大切な人を探す。「ここ、ここ」と自分の膝を指さしたのは、ティファの先輩にあたるジェシー。覗き込んだ先で、ティファは彼女の膝をまくらにして、すやすやと眠っていた。

 

(…ティファ)

 

気持ちよさそうに眠っている様子をみて、こっそり安堵のため息をつく。気持ち悪そうにしていたのなら、こいつらを問い詰めてしまいそうだと思ったから。

 

「いやー、でもほんと早かったねぇクラウド」

「電話したの十分くらい前っスよね?」

「そうそう。ティファが酔っ払って、寝初めてすぐだったからな」

「……」

 

俺の携帯に電話があったのは、同じくティファの同僚のウェッジが言う通り、十分ほど前のことだった。

 

今日は職場で飲み会があるのだと、ティファが俺に申し訳なさそうに告げたのは今朝。俺の知らない男はいるのか、いったいどういう集まりなのか、何人で行くのか。聞いておきたいことは正直山のようにあったが、なんとか耐えて、どこで飲むつもりなのかだけ尋ねた。だがティファは、俺がそわそわとしていることに気づいたのか、場所と一緒に「ビックス一同」だということも教えてくれた。……知れてよかったと思った反面、ティファに知らない間に気を使わせていることに対して、若干反省もした。

 

そういうわけで、場所を知ることができていたから、何かあったらすぐに迎えにいけるように準備はしていた。幸いにも、家から歩いて行ける場所で飲んでいたようだったから、到着するにも時間はかからず。

 

(……ティファが寝たという呼び出し理由は、想定していなかったが)

 

「ほら、ティファー? あんたんとこの王子が迎えにきたよ」

「……ん〜……」

「…うん、全然ダメ。…そんなにあたしの膝枕、寝心地いいのか」

「……。何を飲ませた」

「人聞き悪いなぁ。俺たちは別に何もすすめちゃいないぜ。変なもんも飲んでねぇし、量だって普通だったよな?」

「そーそー。まあいつもよりペース早いなって思ってたけどさ」

「…なんで止めなかった」

「まあまあクラウドさん、怖い顔しないで。ティファにだって飲みたいときがあるんスよ、きっと」

「仕事忙しかったからねぇ。日頃から愚痴とか言うタイプじゃないしさー、この子」

「……」

 

ウェッジたちの言うとおりだと思って、口をつぐむ。もう一度目をやったティファは、幸せそうに微笑みながら、ぐっすり夢の中にいるようだった。

 

「……。ひとまず、礼は言う。あと……迷惑をかけてすまない」

 

ティファの同居人として三人に詫びる。ジェシーは急に威勢をなくした俺を笑ってから、顔の前で手を振ってみせた。

 

「いいのいいの、お互い様だし。つーかこっちこそごめんね。こんな時間までティファ引っ張っちゃって」

「…いや、それはいいんだ。……ティファは楽しみにしていたから」

「聞いた? ティファ楽しみにしてたんだって! あたしがお持ち帰りしちゃおうかなー、なんつって」

「お前が言うとシャレになんねーからやめろ」

 

賑やかなティファの同僚たちを見守りながら、ため息をつく。

ティファはよく家でもジェシーたちの話をする。どうやら上京してきてはじめてまともに喋った同じ会社の人間が、こいつらだったらしい。そのまま運良くこの三人組がいるチームに配属されたから、仕事もなんとか楽しくやっていられるのだと、嬉しそうに話しているのをよく見る。……話の内容から伺える仲の良さにたまに嫉妬しそうになるが、それでもティファに居場所があるということ自体はやはり、俺にとっても嬉しいことだった。

 

「クラウドさん! ティファ、どうやって運ぶんスか?」

 

俺が物思いにふけっている間に、ウェッジが相変わらずの大きな声量で声をかえてくる。

 

「…負ぶって帰る」

「えー! 背負って家まで歩くんスか!? 腰砕けますよ」

「…心配するな。ティファは軽いから大丈夫だ」

「いや、どんだけ軽くてもだめですって! ここファンタジーの世界じゃないですから!」

「無駄だよウェッジ、ほっとけほっとけ」

「…ビックス。金はこれでなんとかしてくれ」

「いや別にいいよ、俺たちの奢りで」

「…使ってくれ。礼と詫びも兼ねてる」

「じゃあさクラウド、今度はいっしょに飲もうね!」

「それは断る」

「ティファもセットで二時間。どう?」

「……。考えておく」

「ほんとクラウドさん、好きっスねーティファのこと」

 

外野の声をほどほどに無視しながら、ジェシーからティファを受け取る。眠って脱力しているティファを背負うのに一苦労しながら、酔っ払ったその体の温もりを冷まし切ってしまう前に帰らないとと決意を新たにする。

 

「…じゃあな。世話になった」

「おう! またなー!」

「気をつけて帰ってね〜。……途中え襲っちゃだめだぞ!」

「…そんな邪道なことはしない」

「そーっスよジェシー! クラウドさんはそんなことしないっス!」

「わかってないなあ、この人はね……」

 

ろくでもない話が始まりそうだと思って、話途中に出る居酒屋。大人が大人を背負うという、おそらく普通は見慣れない光景に、他の客からの視線を集めているのを感じつつ、がらがらと古い音を立てて店の扉を開ける。

 

急に感じた夜の寒さは、少し肌が痛いほどだった。ティファの温もりを一層、際立って感じるような気がした。

 

 

 

「……」

 

ティファを背負って歩く帰り道は、一人で歩いていたときよりずっとあたたかいものだった。それは単に、ティファの体温が合わさったからという話ではない。ティファがそばにいるという、心理的な意味合いが強いような気がする。

 

「……」

「んー……」

「…ティファ、寒いか?」

「…ん……」

「待ってろ、すぐに着くから」

 

さすがに環境の変化に気づいたのか、ティファが背中の上でみじろぎをする。頭だけ振り返って様子を見ても、その瞳は閉ざされたまま。

風邪をひかせてしまう前に帰らないと。そう思い、ティファを背負い直したとき、くぐもっていた声は確かに言葉を発した。

 

「……くらうど」

 

いま、呼ばれると思っていなかった名前に、一瞬驚き息をのむ。

様子を伺うと、ティファはうっすらと目を開けて前を見ているようだった。

 

「…ティファ。起きたか」

「……ん……なんでくらうど……」

「…迎えにきた。今家に帰っているところだ」

「…………あ。……わたし、ねてた……?」

「…ぐっすりな」

「わー………ごめんね、しんじられない……みんなは……?」

「多分まだ飲んでる」

「あした……あやまらないと……」

 

呂律が回っていないような気はしつつも、ティファは我を取り戻したらしく、悲鳴に似た声を小さく上げる。

恥ずかしがっている様子が愛おしくて一人笑えば、ティファは俺の背中でもぞもぞと動いた。

 

「う……ほんとにごめんね……」

「謝らなくていい。…疲れていたんだろ」

「……うん。……おさけまわっちゃった」

「…楽しかったか?」

「……はい」

「なら、言うことなしだな」

「……。…くらうど、おにいちゃんみたい」

「…今日くらいは年上面をさせてくれ」

「ふふ……いいよ」

 

ティファの機嫌が戻り始めている気がして、ほっとする。自分が今年上ぶっているからなのか、ティファがいつもより幼く感じられるのは、単に酒がまわっているせいだろうか。

どちらにせよ、ティファが甘えてくれるのは両手を広げて歓迎したいことではあるから、何も問題はないのだけれど。

 

(……明日、ティファは恥ずかしがるだろうな)

 

「……くらうど」

「…ん?」

「……むかえにきてくれてありがと。……すごくうれしい」

「…うん」

「…おんぶしてもらって、あかちゃんみたいで、はずかしいけど」

「…俺は、ティファをそばに感じられて嬉しい」

「もう……」

 

耳元のくすくすという嬉しそうな笑い声を聞きながら、ふと曇天の空を見上げる。まだ雪や雨粒ひとつ落とさない雲は分厚く、じっとこちらの様子をうかがっているようにも見えた。

なんとか家に帰るまで持ち堪えてくれと、心の中で雲に祈る。祈ったって仕方がないことはわかっていても、背中に宝物を背負う以上、願わざるをえない。

 

(……)

 

ティファを背負い、歩きながら、こういうことが前にもあったような気がしていた。

記憶はいつも曖昧だ。子どもの頃の話か、はたまた違うどこかの場所か、おぼろげではっきりとした輪郭を持たない。

 

だけど感じた心の揺れ動きだけは鮮明に覚えている。ティファをはじめて抱き抱えたときの、この人は確かに生きているんだという、側から見ると馬鹿げた感動。はじめて知った俺よりもほんの少し低い体温。その柔らかさもしなやかさも、ティファという存在を確証づける全てが愛おしくて、言葉にならない感動があったことを昨日のことのように思い出す。

 

いつの間にか、当たり前になっていた。ティファのことを考えて過ごす毎日が。いつの間にか埋め尽くされていた。記憶も願いも何もかもに、ティファの笑顔があった。

ティファが生きている。ティファがおここにいる。それがわかるだけで何でもできるような気がした。何でも叶えられるような気持ちになった。

 

何もかもが変わっていく、変わってきたこの世界で、唯一色褪せることのなかった感情。

唯一途切れることのなかった記憶。すべてを越えて……守りたいと思えた人。

 

 

 

「……クラウド」

 

しばらく黙っていたティファの、落ち着いた声が聞こえたのは、家まであと半分という距離にきたときだった。

 

「…ん?」

「…酔った勢いで……一度聞いてみたかったこと……聞いてもいい?」

 

気づかぬうちに聞こえなくなっていた賑わう人々の声。静かな夜道に、やけにしっかりとしたティファの声だけが溶ける。

 

「…いいよ」

「ありがとう。……あのね」

「…うん」

「…クラウドは……どうして私を選んでくれたの?」

「……、」

 

思わぬ質問に、足が止まった。頭の中が一度ざわめいて、それからだんだん静かになる。

それはまるで、今考えていたこと読まれてしまったのかとさえ思う問いだった。本質を見抜かれたような、図星をつかれたような感覚が、心臓の真ん中に走る。

ティファには何か、見えているんだろうか。それとも何も見えないから……言葉を求めてくれているんだろうか。

 

「……」

 

止めてしまった足を踏み出し、再び歩き始める。しっかりと自分の意志で、自分の脚で。

 

ティファが何を思って聞いてくれているのかはわからない。喜びからかもしれない。単なる興味かもしれない。ひょっとすると、俺の気づいていない不安からかもしれない。

だけど、それがどういた意図のものであっても……俺の中にある答えのような気持ちが揺らぐことは、一瞬もない。

 

「……どうして、かな」

 

ティファにしか聞こえない小さな声で応える。ティファは背中に寄り添って、黙ったまま耳を傾けてくれているようだった。

 

「…自分でも、きっかけは忘れてしまった」

「……忘れちゃうくらい、前?」

「ああ。……俺にとって、ティファを選ぶことは当たり前のことだった。物心ついたときにはもう、ティファのことを目で追っていたから」

「……子どもの頃から?」

「……。その頃には、もう。でも、情けないけど最初は、自分からティファに話しかけたりする勇気がなかったんだ。俺は捻くれていたから……まだまだ弱い自分がティファに話しても相手にしてもらえないと思っていた」

「……。…気づかなかった」

「…そうだと思う。気づいて欲しくて……振り向いて欲しくて、でもやっぱり、気づかないでいてほしい。矛盾していた。それが嫌で、もっと強くなりたくて、ティファよりも先に故郷を出た」

「…そうだったんだ」

 

ひとつひとつ記憶を手繰り寄せながら言葉を紡いでいく。嘘偽りのない記憶を選んで、ティファに明け渡していく。

弱い自分も、情けなく格好悪い自分も、今はもう隠す必要がない。ティファが受け入れていることを、俺はもう十分知っている。

 

「……ねえ、クラウド」

「…ん?」

「…もう一度出会って、がっかりしなかった? 思っていた私と違ったり、しなかった?」

 

ティファが俺の首に絡める腕に力を込める。ティファのくれる言葉のひとつひとつにも、意味がこもる。

 

「まさか。……ティファは俺が思っていたより、思い描いていたよりずっと優しくて、あたたかくて……強い人だった」

「……、」

「…めでたい奴だろ。会うたびに、再会するたびにティファに惹かれる。もうこれ以上惹かれることなんてないって、いつも思うのに……ティファはあっさりそれを超えてしまう」

「……そんな立派な人じゃないよ、私」

「いや、ティファは立派だ。……でも立派だったから、ティファに惹かれたわけじゃない」

「……?」

「うまく言えないけど……ティファといると不思議な気持ちになるんだ。……どんなに腹立たしいことがあっても、ティファがそばにいるだけで嘘みたいに穏やかになる。……ティファのことを想うと、ティファのためだと思うと、何dあってできるような気になるんだ。勇気みたいなものが、無限と湧いてくる」

「…クラウド」

「……ティファだけなんだ。人生で、こんなふうに思えたのは。……ティファと一緒にいるとき俺は、何も飾らず、ありのままの自分でいられる気がするんだ。だから……」

 

話しながら、「酔った勢い」に身を任せているのは俺の方なんじゃないかと思った。

普段区tにできない、言葉にはできないと思い込んでいた想いがつらつらと外に飛び出していく。黙って聞いていてくれるティファに甘え、まとまることのない、飾り気のない言葉をはき出していく。

 

もしかしたら、こうして想いを伝えるのは初めてかもしれない。いつも気持ちを汲んでくれるティファに甘えて、俺は言葉を使ってこなかった。言葉だけじゃ伝わらないと、これまで言い訳を繰り返してきた。

 

だったら……なおさら、チャンスをもらえた今、伝わるように。1センチでも1ミリでもいいから、ティファに届くように。

 

 

 

「……ふふ」

 

ティファが柔らかく笑ったのは、俺が一気に喋り終えてから少し経ったときだった。

 

「…ティファ?」

「あ……ごめん。……一緒で、嬉しくて」

「……一緒?」

「…うん」

 

ティファの言葉に、心がざわめく。

 

「……あのね、クラウド。……私もなんだ」

「……」

 

俺と同じく、あまり気軽に想いを言葉にしないティファの気持ちを知りたくて、耳を澄ます。

 

「……私もね。クラウドと一緒にいるときの自分が、一番好きなの。穏やかであたたかい気持ちでいられるから」

「……、」

「クラウドのそばにいるとね……一人じゃ難しいだろうなっていうことも、なんでもやってみたくなるの。何でもできそうな気がするし、何でもなれる気がする。……生きるのって楽しいんだなって、初めて思えた」

「……ティファ」

「だから、一緒で嬉しい。……クラウドを好きでいられるのが、嬉しい」

「……」

「……なーんて。へへ……まだ、酔いが覚めないなあ」

 

ティファがくれる言葉ひとつひとつが、心の中に溶けていく。それはどんな薬よりも効き目があって、どんな約束よりも想いを結んでくれるもの。

本当は、今すぐティファをこの腕で抱きしめたい気持ちでいっぱいだった。酔っていたって、勢いだって、そうでなくたって何でもいい。この喜びが伝わるのであれば。ティファに届けられるのであれば。

 

俺は今までずっと、ティファのために生きてきた。いや、違う。ティファのそばにいるために生きてきた。

だから考えたこともなかった。自分がティファにとって意味のある存在になれているかどうかなど。ティファにとって、必要不可欠な人間になれているかなど。俺にとって重要なのは、ティファにどう思われているかなどではなかった。はじまりはそうだったとしても、いつの間にか願いは、ティファをどれだけ想えるかに変わっていた。

 

「…ふふ。……なんだか、言葉にすると恥ずかしいね」

 

背中にある、俺にしっかり掴まっていてくれる確かな体温を感じながら、大きく白い息をはく。

俺たちは今、ここにいる。一緒に手をとって暮らしている。

それでいい。過去も未来もきっともう、それだけでいい。

 

「……うん。でも……ありがとう、ティファ」

「…こちらこそ。ありがと、クラウド」

「……俺の人生に、ティファがいてくれてよかった」

「もう、大袈裟だなあ」

「大袈裟じゃない。……好きだよ、ティファ」

「! そ、そんな不意打ち……」

「…? もう一度言うか」

「ま、待って……家に着くまで待って」

 

二人、小声で話をして、笑い合ううちにたどり着いた天望荘。重いから降ろしてほしいというティファをあえて無視して、部屋へと続く見慣れた階段に足をかけ、上がり始める。

 

なあ、ティファ。ティファは笑うかな。

ティファを好きになったのは、本当は子どもの頃よりずっと前かもしれないと言ったら。この世界に生まれたそのときにはもう、ティファを探していた気がすると伝えたら。

 

信じてくれるだろうか。それとも、夢を見ているんだと諭すだろうか。

この出会いは偶然じゃない。星がよく見える同じ村に生まれ落ちたことも、朧げな記憶を花火がつないでくれたことも……ティファと、天望荘で再会できたことも。

輪郭のはっきりしない、記憶なのか願いなのかも定かではない想いが、俺をここまで引っ張ってきた。物心ついた頃にはもう、ティファを見失うなと心が叫んでいた。理由はわkらない。理屈じゃ説明できない。予知夢なのか過去のことなのかさえわからない。

 

だけど……上京し、夢の中で繰り返し見たこの古いアパートに半信半疑で住み始め、しばらく経った頃。隣に越してきた、大人びたティファの姿を目に映したそのときに、頭の中で全てがつながったような気がしたんだ。

 

俺は、この人を待っていたんだと。夢は脆い記憶の中の笑顔ともう一度出会うために、ここまできたんだと。

ティファに見つけてもらうために、俺はこの場所を選んだのだと。

 

 

 

「……クラウド」

「…ん?」

「……ありがとう。…大好きだよ」

「……、うん」

「…忘れないでね」

「……ああ。……忘れない、二度と」

 

ティファの優しい言葉が、氷点下に近い寒ささえ溶かしていく。

 

雪さえ降らない曇天の下、ティファを背負いふたりで帰った。

 

俺たちは一緒にいた。この場所に帰るべき理由を、俺たちはちゃんと持っていた。